トップ > 研究内容 > Al-Mn系合金の析出物の形態と相変態
3004アルミニウム合金の光顕組織.黒色と灰色の晶出物に加え,母相内部には点状と線状に析出物が見られる.
灰色の晶出物はAl6Mn,黒色の晶出物はα-AlMnSiであることが知られている.
上の写真では析出物の断面が見えているのみであり,実際の形状がどうなっているのかはわからない.
例えば点状に見えているものが粒状なのか,針状なのか,理解することはこの画像からは不可能である.
5049アルミニウム合金のSEM組織.
SEMで観察すると電子線はわずかに内部まで侵入するため,わずかに母相が透けて見える.
光顕で点状に見えていたものは奥行きがほとんど見られないため粒状の,線状に見えていたものは奥に伸びていることから板状の形態であることがこの画像からわかる.
しかし,板状といってもその形態は円形,三角形,四角形など様々である.
これを調べるためには,析出物を完全な形で取り出して観察する必要がある.
そこで母相のみを溶解する方法として,沸騰フェノールによる化学抽出法を用いることとした.
3004アルミニウム合金中の板状析出物の光顕像とSEM像
この結果,板状析出物は長方形であることがわかった.
この合金に出現する析出物はAl6Mnとα-AlMnSiであることがわかっており,結晶系はそれぞれ直方晶系と立方晶系に属する.
長方形板状ということは2回の対称性のみを有しているから,この析出物はAl6Mnであると推測できる.
ところでこの合金系では”6 to α変態”と呼ばれる,Al6Mnが母相から固溶Siを吸収してα-AlMnSiへ変態する反応が知られている.
最初に示した画像で灰色に見えていた晶出物が黒色に見えるものに変態する反応である.
晶出物ではよく知られている反応だが,全く同じ物質である析出物については報告が存在していない.
これは析出物の形態が分析の障害となっているためである.
Al6MnはSiを含んでおらず,α-AlMnSiは含んでいる.
組成を調べれば簡単にわかりそうだが,通常の観察で見える断面は非常に薄いため分析はかなり難しい.
板状析出物の厚さはわずかに40 nm程度であり,EDXの空間分解能1 μmと比較すると2桁も小さい.
しかし析出物を取り出して,板面から観察すれば分析に十分な面積を得ることができる.
板状析出物のSEM像.図中点Aと点Bで組成分析を行ったところ,AからのみSiを検出した.
さらに,40 nmという薄さであれば十分に電子線が透過するため,TEMによって観察することが容易にできる.
板状析出物のTEM像.結晶構造から左灰色の部分はAl6Mn,中央黒色の部分はα-AlMnSiであることがわかり,特定の方位関係で変態していることがわかった.
この結果,板状析出物Al6Mnにも相変態が起こることが確認され,変態した部分は変態前の形状を保ったままであることがわかった.
こうした元々の形状を保ったまま別の物質へ変化し,結晶構造からはありえない形となる現象は鉱物学において「仮晶」と呼ばれる.
この現象が金属材料で発見されたのは初めてのことであり,論文としても掲載された.
Orientation relationships of phase transformation in α-Al12Mn3Si pseudomorphs after plate-like Al6Mn precipitate in an AA3004 Al-Mn based alloy