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(a) 骨折部内固定材,(b) 人工股関節 の例 (新家光雄 : 軽金属,6,(1992),358 より引用)
応力遮蔽の模式図.矢印は応力の伝わり方を示す.
周囲の骨に応力がかからないことで,骨の脆弱化・吸収が起こってしまう.
これを防ぐためには,材料と骨の弾性率が同等である必要がある.
チタン合金にはα相(六方最密構造)とβ相(体心立方構造)の2種類の結晶構造が存在する.
原子の充填率が低い(つまり原子同士の間隔が広い)結晶構造であるほど,原子同士が引き合うファンデルワールス力が小さくなるため,弾性率は低くなる.
β相の方が充填率が低い構造だが,純粋なチタンでは高温(880℃以上)でのみ安定に存在するため,室温でも安定に存在するように合金元素を加える必要がある.
合金元素に求められる性質
・β相を低温で安定化させる元素である
・生体に対して無害
・合金のその他の特性(耐食性,機械的性質など)を悪化させない.できれば良くする.
・安価
さらに粉末冶金によって,みかけの弾性率を下げることも可能である.
最も広く使われるチタン合金としてTi-6Al-4V合金が挙げられる.
この合金はα+β型合金であり,純チタンと比較して低い弾性率と熱処理による高強度化が期待できる.
しかし,合金元素として生体為害性のあるバナジウムを含んでいるため,生体材料用として新たな合金開発が必要である.
当研究室ではTi-Zr系合金に第三の元素を添加することで,新たな合金開発を目指している.
Ti-Zr合金は全率固溶型であり,そのα/β変態点は原子比でTi:Zr=1:1の組成で最も低くなる.
ここにβ相安定化元素を添加することでさらに変態点を低くし,室温以下まで下げることでβ型合金が得られる.
(上)Ti-Zr合金の組織.針状のものは冷却が速かったため出現したマルテンサイト(α' or α")である.
(下)Ti-Zr-8Nb合金の組織.針状のものは消え,β単相の合金が得られた.
Ti-Zr-6Fe合金の組織.白色の母相はβ相になったが,そのすき間に灰色の金属間化合物が形成してしまった.
金属間化合物は弾性率が高いため,これが出現しない組成の探索が必要である.
β型合金の結晶構造は体心立方構造であるため,弾性率の異方性が大きい.
Ti-Zr-Nb合金の単結晶を作製し,その弾性率を測定した.
光学浮遊帯域溶融法(OFZ法)によって作製した合金単結晶
各方位の弾性率
E100=36.7 GPa
E110=64.8 GPa
E111=86.8 GPa
ヒトの骨の弾性率は10~30 GPaであるため,<100>方向を用いれば,応力遮蔽を防ぐことが可能であると考えられる.